2011年11月24日木曜日

海のいのち

父もその父もその先ずっと顔も知らない父親たちが住んでいた海に、主人公の太一も住んでいた。

太一の父は村一番のもぐり漁師だった。しかしどんな魚をとってきても、
「海のめぐみだからなぁ。」
と自慢することなく言った。太一は父のようになりたかった。

ある日、父は漁に出てから戻ってこなかった。水中でロープを体に巻いたまま事切れていたのだった。ロープのもう一方には光る緑色の目をしたクエがいたという。太一は、村一番の漁師になって父が敗れたクエをしとめるということを目標にしたのではないかと私は思えた。

その後太一は、父の死んだ瀬に毎日一本釣りに行っている漁師、与吉じいさの弟子になった。与吉じいさは言った。
「千匹に一匹でいいんだ。千匹いるうち一匹をとれば、ずっとこの海で生きていけるよ。」
弟子になって何年もたったある朝、与吉じいさはふっと声を漏らした。
「お前は村一番の漁師だよ。ここはお前の海だ。」
そして真夏のある日、父と同じように与吉じいさも海に帰っていった。

太一はいつものように漁に出て、父の死んだ辺りの瀬に潜った。とうとう父の海にやってきたのだ。そこで自分の追い求めていた幻の魚、クエを見つけた。父を破った瀬の主なのかもしれない。
「ずっと追い求めていた。絶対につかまえる。この魚をとらなければ一人前の漁師にはなれないのだ。」
そんな気持ちで太一はもりを突き出した。しかしクエは全く動こうとせず、穏やかな目で太一を見ていた。そして太一は、この全く動じないクエに尊敬の念を抱くようになった。
やがてそのクエが父のように思えてきた。こう思うことによって太一は瀬の主を殺さないですんだのだ。大魚はこの海のいのちだと思えた。

太一は村一番の漁師であり続けた。しかし、巨大なクエを見かけたのにもりを打たなかったことは、生涯誰にも話さなかった。

6年Y,R

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